
怪談専門誌『幽』の連載で話題騒然の作家
待望の初単行本!!
書き下ろしを含む全七篇収録のデビュー短篇集。
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長い旅のはじまり」
小刀で下腹部を刺され、助けを求めて寺にやってきた少女。少女はそういう経験がないのにもかかわらず子供を身ごもっていた。やがて少女が産んだ子は、初めから経文を知っていた――。 父、娘、娘の子、三人の不可思議な関係とは、という話。処女懐胎の理屈には絶句。
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井戸を下りる」
高利貸しを営む父の息子である私は、井戸に落ち、そこで雪という名の美女と出会う――。 井戸の中で暮らす美女に惚れ込んだ男の話。美女・雪の秘められた過去が切ない一篇。
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黄金工場」
工場で働く千絵ねえちゃんに好意を抱いていた少年は、森の中で拾った黄金のコガネムシをあげようとするのだが――。 森の中の工場から出る廃液には生きているものを黄金に変えてしまう力があった、という話。年上女性への少年の淡い恋話から一転、ブラックなオチが待ち受けるホラー。
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未完の像」
師匠の元で仏師としての修行を積む私の前に現れた少女。弟子入りしたいという彼女は、木片を手に取り見事な出来映えの鳥を完成させる――。 本物以上に本物らしい彫刻を作る少女が仏像を作ろうとする話。"鬼"を自称する少女が普通の"人間"になる瞬間の切なさに胸をうたれる。
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鬼物語」
山に入った人が無惨に殺されていく。村の人々は熊にやられたと云うが、私だけはそれが鬼の仕業であることを知っていた。熊退治のため山に火を放ったその夜、鬼が村へと降りてくる――。 人喰い鬼の話。綾辻行人の『殺人鬼』を彷彿とさせるほとんどスプラッタな一篇。ベタ過ぎる兄弟愛が涙を誘う。
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鳥とファフロッキーズ現象について」
傷付き屋根に引っ掛かっていた鳥を救った父と娘。その鳥はどうやら人の考えていることが分かるらしく、傷が治っても出て行こうとしない。そんなある日、父が強盗によって殺されてしまう――。 鳥の恩返し。ミス・ディレクションも用意されている、本書のなかでは最もミステリ寄りな一篇。個人的には本書のベスト作。
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死者のための音楽」
生まれつき耳の悪い母は昔、川で溺れたときに音楽を聴いたという。そんな母が手首を切った――。 いまわの際の母娘の会話が母視点と娘視点で交互に語られる。ラスト一行に途方もない哀切さを感じる一篇。
著者の山白朝子氏は「正体は乙一では?」と噂されている人物。なるほどたしかに、簡素ながらも端正でふわっととした感じの語り口や、さり気なく技巧を凝らした小説作法など、ものすごく乙一氏っぽい。山白氏の略歴を見る限りでは乙一氏とは別人のようだが、この略歴がウソということも考えられる。
まあ、山白朝子が乙一であろうとなかろうと――。
これは
比類なき傑作。
本書に収録されている七篇のうち、書き下ろしの一篇を除く六篇は怪談専門誌「幽」に掲載された作品だが、純粋な怪談として読めるものはひとつとしてなく、どれも怪談要素を含んだ幻想小説といった感じ。
各篇に共通するテーマは"愛"。親子愛、姉弟愛、人外愛、背徳の愛――といった様々な"愛のカタチ"が残酷に、そして哀切に語られるのだけれど、この語りの巧さは只事ではない。
というわけで。
乙一ファン、および怪談・幻想小説ファンは必読の一冊かと。
それはそうと、本書のスピン(しおり紐)にはビックリ。
2007年11月 メディアファクトリー