
少女と不気味な訪問者との奇妙な交流を描く表題作をはじめ、「黒い手の呪い」、吸血鬼集団の血の祝祭「血の病」、連続殺人者と女性記者の交渉をミステリー仕立てで綴る「アーノルド・クロンベックの話」、ポストモダン・ゴシックの傑作「マーミリオン」ほか、長靴や蠅が語るブラックな寓話や、美しく歪んだホラーなど、全19篇を収録。
【奇想コレクション】第11回配本。
デビュー作『
血のささやき、水のつぶやき』収録作すべて(13篇)と後に発表された6篇を加えた日本オリジナルの短篇集。
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天使」(The Angel)
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失われた探検家」(The Lost Explorer)
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黒い手の呪い」(The Black Hand of the Raj)
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酔いどれの夢」(Lush Triumphant)
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アンブローズ・サイム」(Ambrose Syme)
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アーノルド・クロンベックの話」(The Arnold Crombeck Story)
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血の病」(Blood Disease)
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串の一突き」(The Skewer)
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マーミリオン」(Marmilion)
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オナニストの手」(Hand of a Wanker)
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長靴の物語」(The Boot's Tale)
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蠱惑の聖餐」(The E(rot)ic Potato)
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血と水」(Blood and Water)
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監視」(Vigilance)(1989)
刑罰史の非常勤講師・パーキンズを監視する刑務官志望の学生。やがて学生は大胆不敵で危険を伴う計画を決行する――。 著者の十八番である"信用できない語り手"もの。語り手は自分の妄想によってある異常行動に出て講師を破滅させようとする。とにかく偏見だらけの語り手が面白い。
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吸血鬼クリーヴ あるいはゴシック風味の田園曲」(Cleave the Vampire,or,A Gothic Pastorale)(1991)
人間のふりをした吸血鬼が娘を狙っている。母親はどうにかして娘から吸血鬼を遠ざけようとするのだが――。 語り手が妄想に妄想を重ねる作品だが、ある意味吸血鬼ホラーへのアンチテーゼとして読めなくもない。
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悪臭」(The Smell)(1991)
規律を守らない家族にお仕置きをする父親。次第に家族から敬遠され始めた父親は、異臭を嗅ぎつける。臭いはどんどんひどくなっていき――。 マグラアとブラッドフォート・モローが編んだアンソロジー『幻想展覧会――ニュー・ゴシック短篇集』(The New Gothic)に「におい」という邦題で収録されていた作品。悪臭に悩まされる男の話で、開かずの部屋という小道具の使い方がなかなか効果的。オチも悪くない。
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もう一人の精神科医」(The Other Psychiatrist)(1991)
若い女性患者を担当することになった精神科医。だが普段からそりの合わない同僚の医師によって患者を奪われてしまう――。 主人公のねちねちと歪んだ語り口が面白く、話の落とし方も巧い。
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オマリーとシュウォーツ」(O'Malley & Schwartz)(1992)
地下鉄のホームで死んだ恋人のためにヴァイオリンを演奏するオマリー。精神を病み、線路の向こうに女の姿を見た彼は――。 ギリシャ神話オルフェウス物語のパロディで、オマリーに悲哀を感じるが、最後の最後で彼に同情できなくなる。
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ミセス・ヴォーン」(Mrs.Vaughan)(1993)
年上の人妻に恋をした若い医師――。 長篇『愛という名の病』の一部だが、これだけではなんのことやらわからない。
追加収録された6篇中4篇までもが"信用できない語り手"ものなので、やや食傷気味になるものの、出来はどれも良い(さすがに「
ミセス・ヴォーン」だけはいただけないが)。
というわけで。
マグラアの全短篇が読めるかなりお得な一冊。
2007年5月 河出書房新社(宮脇孝雄=訳)