
動き出す木彫りのねずみ、落語競演会で仕掛けられた「陰謀」
学校での「妙ちきりんな事件」と義兄の結婚問題、
そして師匠と十五センチの謎と駐車場で見たもの、
これがあんなでそんなことに……。
大好評「本格落語」シリーズ第三弾!
【ミステリー・リーグ】の一冊。
〈神田紅梅亭寄席物帳〉シリーズ3冊目となる書き下ろし連作短篇集。全3篇収録。
「
ねずみととらとねこ」
競演会(コンクール)に参加することになった福の助。競演会には陰険で人望のない兄弟子・福太夫も出るという。競演会で演じる予定の「ねずみ」の稽古をつけてもらうため馬春師匠のもとを訪れた福の助だったが、師匠が発したひと言は「ねずみ」の根本となる大前提を否定するようなものだった――。
「
うまや怪談」
亮子の兄が結婚することになった。しかし、母と婚約者はうまくいっていないらしく、先方の父親も本音では結婚に反対しているとのこと。そんな両家の両親が揃って福の助の高座を観にくるというのだが、福の助が演じる予定の「厩火事」には婚約者の父を激怒させかねない要素が入っており、しかもその落語会では演目を変更することが許されていない。一方、亮子が事務員をしている高校では臨時講師にぞっこんな女子生徒がいたり、ある教師にストーカー疑惑が浮上したりと慌ただしくて――。
「
宮戸川四丁目」
先の事件を"ひとり"で解決してまったため、馬春師匠から"出入り止め"にされてしまった福の助は、師匠に機嫌を直してもらうため、落語の「たばこの火」に出てくる"かつお節の屋台"を自作し、それを持って師匠の家へと出向く――。
馬春師匠からの"ヒント"をもとに、弟子の福の助が"落語の謎"と"事件"を高座で一気に解決する――
――というのがこのシリーズの定型だけれど、シリーズ3冊目となる本書ではそのパターンは踏襲されていない。「
ねずみととらとねこ」では馬春師匠からの"ひと言"こそあるものの、実際はそれが"ヒント"になるどころか福の助を悩ませる"難問"になってしまうし、表題作では馬春師匠の出番そのものがなく、「
宮戸川四丁目」はレギュラー陣の立ち位置(役割)がこれまでとは明らかに違う。
そもそも。
本書には、結婚に反対する親、臨時講師に岡惚れする女生徒、迷惑駐車、といった"日常の謎"にもなっていないような"ちょっとした騒動"があるばかりで、およそ事件らしい事件は起こらない。
――と。
日常の謎系ミステリとしては大分薄味になってしまった感は否めないが、落語ミステリとしては相変わらずのハイクオリティ。落語への新解釈はどれも説得力があってすこぶる面白いし、
シリーズものとして話がきちんと進展しているところもいい。まあ、登場人物が多くて話がごちゃついてしまっているきらいがあるし、正直、期待していた"怪談"とは全然違ったものだったけれど。
というわけで。
(いろんな意味で)期待していたものとは違ったけれど、これはこれで良い出来、そんな一冊。
2009年10月 原書房
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