
うむ、これによって、地平線は目に見えて明るさを増したと言わねばならない。
友人たちのこじれた結婚問題を解決しようと鬼門スティープル・バンプレイに赴いたバーティーは、隣町で開催される仮装舞踏会に出るため"船乗りシンドバッド"のコスチュームを入手する。その衣装には、シンドバッドには不可欠なジンジャー色をした頬ひげも付いていた。……シリーズ第7弾。
【ウッドハウス・コレクション】第7回配本。
〈ジーヴス〉シリーズの第5長篇。
原題は『Joy in the Morning』(1947)。
訳者あとがきによれば、本作は戦時の直中に執筆されたとのことだが、内容は戦争の"せ"の字も感じさせぬいつも通りの〈ジーヴス〉もの。
アガサ伯母さんと再婚したことでバーティーの義理の伯父となったウォープルスドン卿(パーシー伯父さん)とアメリカの海運王・クラムとの極秘会談を実現するため、スティープル・バンプレイという田舎の集落へとやってきたバーティー。そんな彼に、パーシー伯父さんの娘でバーティーの元婚約者であるフローレンス嬢とバーティーの学友・スティルトン、同じくバーティーの友人・ボコとパーシー伯父さんの被後見人・ノビー、という二組のカップルの恋愛問題がのしかかってくる、というストーリー。
物語を引っかき回すのはフローレンス嬢の弟・エドウィン。傍迷惑な"一日一善"で以て次々と登場人物たちの逆鱗に触れていく、というナイスなキャラである。むろん、彼の最大の被害者が我らがバーティーであることはいうまでもない。
今回、ジーヴスの活躍は割とおとなしめ。自分が釣りをしたいばかりに嫌がるバーティーをスティープル・バンプレイへ行かせるという腹黒さは健在だが、終盤では途方に暮れてしまう場面すらある。まあ、要所では機転の利いた策を考案するので絶不調というほどではないが。
一方、名前だけしか登場しないにも拘わらず、その圧倒的なまでの存在感を見せつけてくれるのがアガサ伯母さん。本作における彼女の役回りは「死せる孔明生ける仲達を走らす」といったところ(もっとも、彼女はバリバリ生きているのだけれど)。
というわけで。
本作もファンならば安心して愉しめる一冊である。
2007年4月 国書刊行会(森村たまき=訳)
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